ホームページサービスから、ロリポップ!レンタルサーバーに引っ越しされたテキストサイト「侍魂(さむらいだましい)」
2000年代初頭に人気を博したことから、SNSやメディア上で今回の移設劇を話題にされる方も多くいらっしゃいました。
そんな「侍魂」移設の裏側を管理人(サイト運営者)の健さんと、今回の引っ越しを導いたヨッピーさんにうかがいました。

健さん(右)プロフィール
テキストサイト「侍魂」の管理人。ホームページサービスの終了に伴い「ロリポップ!」に引っ越したことを綴った記事が、20年振りに更新されたと話題に。
ヨッピーさん(左)プロフィール
「侍魂」と同時期にテキストサイトを運営。現在はフリーライターとして「オモコロ」での執筆をはじめ、メディア・イベント出演など多方面で活躍。

きっかけは「侍魂がなくなっちゃうからなんとかしてよ」
ー ヨッピーさんのXでの投稿をきっかけに「侍魂」が存続した訳ですが、おふたりは普段からやり取りされていたんですか。
ヨッピーさん
いや全然。確かフォロワーに教えてもらったんです。『「侍魂」がなくなっちゃうからなんとかしてよ』って誰かが言ってきて「確かに」と思った感じでしたね。健さん
今でこそXをやってるけど、その時はメールアドレスはないし連絡する手段がなくて。ヨッピーさんとは、最初ショートメールで「どうすんの?」って聞かれて、「ぜひお願いしたい」と言ったんですけど。ヨッピーさんがいなかったら、具体的な行動を起こすまではしてなかったし、フェードアウトでいいかなと思ってました。
ヨッピーさん
もったいない。「侍魂」は日本のインターネットの教科書には絶対載りますよ。一世を風靡したし、残すべきと思ったし、かつ残したい人がいるだろうからどうにかなるだろうと思いましたよ。ー ロリポップが残したい集団の一つだったのかもしれませんね。
ヨッピーさん
ロリポップってなんか収まりがいいなと思いません?ロリポップが引き取るって聞いたら、確かにロリポップが引き取るべきな気がするわっていう(笑)なんとなくイメージがハマりますよね。健さん
ロリポップは日本の個人サイトを大事にしてくれているイメージがありますよ。
同じ時代に、違う場所にいたふたり
ー 当時の健さんとヨッピーさんのホームページは、スタンスが違いましたよね。
ヨッピーさん
僕は日記中心で侍魂はネタ中心でしたよね。途中で「侍魂」が爆発的に人気になって「すごいなー」と側から見ていました。そしたら「侍魂」からリンクされているテキストサイトが人気が出てきて、そこから僕のサイトに流れてくるみたいな。アクセスの下請けの孫請けみたいな恩恵を受けていました(笑)健さん
テキストサイトと言ってもいろんな個性があって、いろんなスタイルがありましたよね。作家性があったり孤高の人みたいなイメージの人もいて。私が担当していたのは痛い系サイト、自虐系サイトだったんですよ。痛い系っていうのは自分をネタにするというのもあるんだけど、人を攻撃しないっていうのもありました。
ヨッピーさん
ただ、「侍魂」がインターネットを席巻したというのはそうなんだけど、テキストサイト界隈では叩かれてましたよね。
健さん
めちゃくちゃ叩かれた。本当にテキストサイトの人たちと会うの怖かったもん。ヨッピーさんとも会うの怖かった。今は、ありがたい話なんですけど「侍魂」がテキストサイトの代名詞みたいになっていて「テキストサイトといえば健さんです」みたいなコメントいただくけど「本当はちょっと違うんだよなあ」と思いながら。ヨッピーさん
僕は叩いてなかったですけどね(笑)テキストサイト界隈では、売れていく人たちに対するやっかみはあったと思いますね。健さん
自分に文才があるとは思ってなかったからね。ヨッピーさん
売れるのに文才はあんまり関係ないですよね。テキストサイト界隈には「この人すごい文章を書くなあ」と思う人もいたけど、ほとんどの人が続かなくなって途中で辞めちゃうんですよ。ずっとやっていたら、何者かになっていたと思うんだけど。20年越しに再評価された「侍魂」
ー 20年たっても「侍魂」が認知されていることについてどう思いますか。
健さん
すごく嬉しかった。前のサービスが終わるギリギリのタイミングまで騒がれてなくて「フェードアウトしちゃおうかな」と思ってたから。踏み出してみたら、思っていた以上に愛されてたんだなって感じられて、あの当時現役でやっていた時よりも「復活して良かった」っていう声の方がすごく沁みますね。
ヨッピーさん
X(旧Twitter)が楽しくなってるんだから、いいことですよ。ちゃんとウケててすごいですね。健さん
ヨッピーさんから褒められると嬉しいな。Xは「ちょっとアウトプットしてみたいな」「やっぱりテキスト好きだな」と思って、なんのコンセプトもなく再開してみたんです。
2ヶ月くらい見つからなかったんですけど、その時間がおもしろくて。テキストサイト始めた時も、誰も来ないじゃない。Xもしばらくしてから「あれ?これ本物?」みたいに、ちょっとずつ気がつく人が増えていくのが、当時の「侍魂」を地道に積み上げていく時に似ていて。
ヨッピーさん
それでいうと、今更YouTubeを始めてみたら楽しくて。テキストサイトを始めた頃のような楽しさを改めて知るみたいな。当時テキストサイトを始めた時、すごく楽しくて、次にSNSが出てきて、それも楽しかった。だけど次の楽しいとか、わくわくするものがそんなになかったんですよ。

ー おふたりがインターネットで新しいことを始めようとする源泉はなんでしょう。
健さん
学生の時から変わってなくて「読んでもらった人を笑わせたい」が一番のモチベーションです。それ以外あまり考えてないかも。当時「侍魂」を含めたテキストサイト界隈は、おもしろいことを日々競い合っていたんですよね。いろんな切り口でおもしろいことを言ってる人たちがいて「そこに参戦したい」「うならせたい」「笑わせたい」みたいな。
ヨッピーさん
多分ラジオのハガキ職人みたいなメンタルに似てますよ。「ずっと笑わせたい」とか「自分がおもしろいと思ってるものが世間に通用するのか試してみたい」とか、そういう感覚なんじゃないですかね。「黒歴史」を消すか、残すか?個人サイトの役割とは
ー おふたりも、昔の記事を見返すと「消したい」と思うものですか。
ヨッピーさん
めちゃくちゃありますよ。僕は消せるものは消しました。健さん
私も消したいのありますけど、もう無かったことにしてるから(笑)みなさんに『「侍魂」は文化遺産だ』みたいに持ち上げられて、こうやって引き取っていただいて、こっそり消したらダサいじゃない(笑)ヨッピーさん
文化遺産だからしょうがないですね。国立公園とか勝手に消えないですもんね(笑)ー 令和の今、個人サイト・テキストサイトの役割ってなんだと思いますか。
ヨッピーさん
強化外骨格だと思ってます。自分本体がこれくらいだとしてもブログとかSNSとかあることによって、より強化されるみたいな。例えば「これがやりたい」って思った時に、ブログやSNSに書いてる方が実現性が上がるし、応援してくれる人も増えるし、自分本来以上の力が出せるものかなと思ってますね。
健さん
私は何度も言うように「目の前の人を笑わせたい」っていうところから始まってるんだけど、そういうエネルギーが広がっていって、少しでもインターネットの世界がいい方向にいけるといいなと。その中の一人でありたいですね。私らの時代って企業のホームページしかなかったけど、今は個人もインターネットを構成するひとつだから。発信する人は増えた方がいいと思うけど、その方向性として、世の中が良くなるようなイメージが共有されたらすごく良いと思う。
例えば、PCでトラブルがあった時に「同じエラーが出た人のために備忘録として残します」の頼もしさは異常ですよ(笑)こういう名もない個人の発言が、ちゃんと集合知として残っていくイメージです。

拡散と炎上が前提になったインターネット
ー 昔のテキストサイトと今のSNSの拡散のされ方と炎上リスクも違いますもんね。
ヨッピーさん
広まり方は全然違いますよ。比べ物にならないでしょう。ただ、受け手も変わりましたよね。読んでる層が昔とは変わってる。今のインターネットは、誰も彼もやっているから全方向に気をつけなきゃいけないっていう。ー 発信する時に気をつけてることってありますか。
ヨッピーさん
めちゃめちゃありますよ。ただ、傷ついてる人がいると申し訳ないとは思いますけど、それを気にしすぎたら「あの映画がおもしろかった」「あの食べ物がおいしかった」とかも全部話せなくなるから、キリがないとも思っていて。僕の知人のテキストサイトの人から「うちは不妊でつらい思いをしたから、ヨッピーの子どもネタは見るのがつらい」って言われて「それを言うなら、きみは猫を飼ってて猫の写真をよく載せてるけど、僕は猫アレルギーで猫は飼えないから、それを言いだしたらキリがない」って言ったら「確かに」って言ってました。
健さん
私の場合はライターとして仕事してるわけではないけど、20年振りにXで文章を書くようになって「この表現どうなんだろう」とか、めちゃくちゃ気使う。表現とか制作の現場でやっている人はどれだけ大変なんだろう。ヨッピーさん
前は書きたいこと書けてましたからね。ただ、言いたいこと言えてた時代に戻った方がいいのかっていうと、そうとは思わない。傷つく人が少ない方がいいに決まってるので戻せとは思わないですけど、気は使いますよね。健さん
本当になにを書いても、一定方向には悲しむ人はいるって言うのはどうしようもならないんだけど、ヨッピーさんはライターさんだから表現の幅は狭めたくないっていう立場の違いはありますよね。昔も言われていたけど「半年ROMれ(ロムれ)」は名言だよね。
※ROMる=書き込みをせず、読むだけにとどめること

ー 半年ROMるからこそ雰囲気とか空気がわかるってことですよね。
ヨッピーさん
今こそ必要ですよ。Xに登録したら、半年ROMれ。投稿できない仕組みにした方がいいと思う。覚えたての人が無邪気に触ってたらこわいですよね。「今こそ半年ROMれ」記事のタイトルになりますね(笑)
匿名性と顔を出すという選択
ー インターネットに顔を出すことについては、どう考えていますか。
ヨッピーさん
顔を出し始めたのは会社辞めてからなんですよね。単純に無職になって、なにもこわいものがなくなったからですよ。健さんもフリーランスとかだったらあれでしょ。健さん
たぶん、どこかのタイミングで出してたと思いますけど、ただあの当時「ネットに顔を出したらおしまいだ」みたいな空気があったでしょう。それもあって自己防衛のためにサングラスとアフロを被り出したんだけど、当時テキスト界隈でアフロを被るブームもあったのね。ヨッピーさん
ありましたっけ?(笑)健さんしか知らないですよ。健さん
他にもいたんですよ(笑)いろいろ取材を受ける中で顔出すのいやだなと思って。で、とりあえずサングラスとアフロだったんですよね。ヨッピーさん
そういうレギュレーションって緩んでいくんですよ。最初「インターネットに顔を出したら終わりだ」くらいだったのが今は出すのが当たり前だし、名前もハンドルネームだったじゃないですか。でも今は本名が当たり前だし。
健さん
本業の会社をまわしていかなきゃいけないから、「侍魂」のXは再開したけど家族には絶対にバレたくないなっていうのはあるよね。ー バレたらどうします?
健さん
バレたらバレたでしょうがないけど。「侍魂」をやっていた当時、飯終わってお茶飲んでる時にいきなり親父に「先行者(※「侍魂」に登場するキーワード)っておもしろいな」って言われたんですよ。子どもに見つかったら、あれ以上の衝撃を受けるんだろうなと思うんだけど(笑)
ー お父さんとしては「見てるからな」ってことなんですかね。
健さん
見てるからなもあったと思うけど、当時親父に「侍魂」を教えた人がいて「お宅の息子は会社継がないかもしれない」って心配して言ってくれたらしくて。残念ながら私にはあれほどヒットした「侍魂」をお金にする商才がなかったので、無事に実家を継ぎました。「お父さん、息子に商才がなくてよかったですね」(笑)ものづくりはやっぱりおもしろい
ー 個人サイトを続ける理由ってなんですか。
健さん
20年お休みして、今は「人に見せる文章を書くのが結構楽しいな」って原点に戻っています。自分なりに突っ走ってきて就職を機にフェードアウトしたんだけど、最初にあった「人を笑わせたい」っていうのが強くて「なんか書きたいな」「Xやってみたいな」とは思っていて。ヨッピーさんがライターをやってるのを見ていて、大変そうだけど「楽しそうだな」「羨ましいな」って思ってたんですよ。人前で練った文章を書いて反応をもらえるっておもしろいんだよね。
ヨッピーさん
ものづくりはやっぱりおもしろいですよ。一番楽しいんじゃないですか。それを発表して人に見せるのも楽しいですよね。
これから先のインターネット
ー 10年後のインターネットはどうなってると思いますか。
健さん
AIの発展で情報の価値が下がっていく中で、人に価値が生まれるみたいのは感じるかな。ポッドキャストとか最近聴き始めたんですけど、誰がなにを喋ってるかが担保されている中で聞いてるわけじゃないですか。得体の知れないものを聞くんじゃなくて、所在のはっきりしたものを聞くっていうのが、すごい楽しみなんですよね。
ー 安心できる?
健さん
そう。Xを復活して思ったのが、自分がおもしろいと思う投稿も人気の投稿も「誰がどう言ったか」に対して、自分の感情をゆさぶられるようなものが人気だと感じるんです。そういう意味では、企業告知でも広報の方とかじゃなくてキャラが立ってる企業の方が効果が見込める、誰が喋ったかに力点が置かれるようになってるかなと。私の場合は、その受け取り方が目で見るものから耳で聞くという深い方向にいってるんですけど。
ヨッピーさん
10年スパンで考えると規制はきつくなってるんじゃないですかね。免許制とかになってる気がするなあ。最初は免許制とかとんでもないと思ってましたけど、今の現状を見てたら「それもしょうがないかな」って気がしますね。ー さっきの「半年ROMれ」の話にもつながってきますね。
健さん
私なんて、インターネットをきっかけにこういう場所に呼んでいただいたり、おもしろい体験をさせてもらってるのに、子どものインターネットはめっちゃくちゃ制限してるからね。スマホを使う時間を決めたり、ネットの仕組みから失敗した人の事例をまとめた「ネットリテラシー講座」のスライドを作って、それを勉強してからじゃないとスマホは買い与えないようにしてる。ずっとショート動画見てる子どもとかいるもんね。
ヨッピーさん
僕は文章を書くのが楽しくて好きでやってるから、子どもたちにも作る楽しみを覚えてほしいですよね。なんでもいいから。ー 子どもも安心してインターネットを楽しめるようになるといいですね。
健さん
注目を集めるだけ集めるっていう、ヘイトで稼ごうとするとかっていうのは私もヨッピーさんも根本的に合わないんですよね。論ずる立場なのかっていう問題はあるんだけど、自分が関わるインターネット、自分が発信するのであれば少しでも良い方向にしたいですよね。誰かを攻撃したり、たいしたネタじゃないのに煽るだけ煽ってというのが流行るとインターネットがおもしろくない方向にいっちゃうので。
書き続けてきたふたりから、これから書く人へ
ー 今からテキストサイト・個人サイトを始めたい人にメッセージはありますか。
ヨッピーさん
思いつくことを全部やってみたらいいと思いますけどね。なにかを作って発信するっていうのはすごくおもしろいんですよ。僕はそれで人生救われてきたと思ってるし、みんなにもそうあって欲しいと思うので、そのおもしろさはぜひ知ってほしいですね。健さん
テキストサイトを今から始めろっていうのは(笑)別に私がインターネットをどうこうできるわけじゃないんだけど、自分の周りのゴミ掃除じゃないけど、見える範囲くらいはちゃんとインターネットがおもしろい方向に行くようなコンテンツを発信したいなと思いますよね。
これを読んだら、昔のおもしろい人たちにぜひ戻ってきてもらいたいね。
ヨッピーさん
みんな、なにしてるんだろうな。健さん
現役で書けとは言わないから出てきて、たまには昔話でもしながら一杯飲もうよ。2000年代初頭、開設からわずか数ヵ月で1日20万ものアクセスを集め、インターネット文化にブームを巻き起こしたテキストサイト「侍魂(さむらいだましい)」。2025年夏、サイトがあったホームページサービスのサービス終了に伴い、ロリポ[…]
取材:Hayashida・Watanabe
文章:Watanabe
撮影:Sumijun



